昨夜は、文化の駅サテライトステーション事業 小津安二郎再発見 第5回「大人の見る絵本 生まれてはみたけれど」を開催させていただきました。
参加は45名(後日の名簿で48名でした)とやや不調でした。昭和7年のサイレント映画ということで、馴染みが薄かったのかもしれません。それでも、参加の皆様には大変喜んでいただき、「小津さんの映画は良いですね。観た後3日間くらいは、作品を思い出してほのぼのとした気分にさせていただいています」といった返事が返ってまいりました。
この映画が作られた昭和7年と申しますと、世界恐慌の波が2年ほど前から日本にも出始め、上海事変が起きて関東軍が満州国を設立するという大変不穏な世情でした。小津安二郎自身も、数年後に中国大陸へ出兵することになります。ただ、小津監督は、当時のアメリカ映画に魅了されていた為か、映画の中に兵隊を出すことは一切ありませんでした。戦争に対して反戦というよりも厭世的であったといえるでしょう。しかし、運命に逆らうことなく、積極的に兵士としての任務を全うしました。シンガポールで敗戦となり捕虜となっても、帰国の際には現地に最後まで残ったと記されています。
映画「生まれてはみたけれど」は、子供の世界を描いたものです。「学校に行くのは楽しいか?」という父親の問いに「学校に行くのも帰ってくるのも楽しいけれど、その間がどうも気に入らないね」と答えて父親をムッとさせたり、
空き地で群れて遊ぶこどもの背中に“この子はおなかを壊しています。お菓子を与えないでください”と書いた看板が貼ってあったり、けんかに強くなる?というスズメの卵を、試みに家の犬に食べさせたところ脱毛したので、弟が兄の頭を心配したりと、生き生きとした楽しいギャグがいっぱい詰まっていました。
そして後半、上役にペコペコする父親を見て強い不信感を抱きます。上役がなぜ偉いのか?お金持ちだから偉いのか?じゃ、給料をもらわなきゃ良いじゃないか。貧しくても偉い人はいる。お父ちゃんはどっちなんだ?身につまされるセリフがポンポンと出ます。
最後は、踏切に立つ専務を見て「お父ちゃん 挨拶をしなよ」を父親に話し掛けます。子供も社会の矛盾を認めて生きていかなければならない、そんなやるせなさと、ほのぼのとした情景でこの映画は終わります。生まれてはみたけれど、この世は理不尽なことだらけじゃないか・・・
次回は、12月23日 昭和27年のモノクロ作品「お茶漬けの味」です。ご期待ください。