中日新聞掲載の「ベストセラーで読む戦後世相史」末国善己著。第4回は、松本清張著の『点と線』。
学生の頃、光文社のカッパブックスで清張作品の「眼の壁」「時間の習俗」「砂の器」などは、姉と回し読みしたりした。
昭和32年、雑誌「旅」に連載された「点と線」は、社会悪を告発する「社会派推理小説」としてベストセラーとなった。東京駅の13番線から、特急あさかぜが停車する15番線が見渡せる4分間。汚職の渦中にある課長補佐と料亭の女将が列車に乗車するところの目撃者を仕組み、心中事件をでっち上げる。神武景気に沸いた当時は、汚職事件が相次ぎ、政治家や官僚への不信感が高まっていた。関係者の不可解な死で汚職の追及が出来なくなる本書の展開は、当時の読者には生々しかっただろう。経済白書が「もはや戦後ではない」と宣言し、旅行を楽しむ余裕が出てきた日本人の欲望を的確に掴んだことも大きいのである。