なんとこの映画は、昭和11年に公開されました。
当時は2.26事件が起きた年です。身売りが行われ、朝鮮人労働者が強制労働に従事された、そう云った不穏な世相を反映した映画です。
にもかかわらず、南伊豆を走る路線バスにはあまり暗さが感じられません。
運転手(上原健)は道行く人すべてに「ありがとう」と声をかけながらバスを走らせます。それはリズミカルですら感じられます。
驚くべきは、江戸時代から変わらずに営まれ続けていた伊豆半島の世相が描き出されていることでした。
これは貴重なフィルムです。私たちは、江戸・明治・大正・昭和と一定の印象を持って意識づけてきました。しかし、地方の人々の暮らしは、学校ができたことや、バスが走るようになったことぐらいで、人々の生活そのものはそれほど変わってはいませんでした。
大きく変わったのは昭和30年代以降だったでしょうか。
ゆっくり、のんびり、時の流れは時代に左右されまいとばかりに過ぎていきます。けれど、時代の不穏な流れは、しっかりとこの地方にも浸透してきていました。
この映画はハッピーエンドで終わります。フランク・キャプラの“或る夜の出来事”の影響を受けたと聞きました。
心地よく楽しい、人生に元気が出る、素晴らしい映画です。
この映画を推薦していただいた方に、深く感謝したい気持ちです。