十返舎一九作の“東海道中膝栗毛”下巻を図書館にて借りてくる。下巻は“桑名から追分まで”で始まる。幼少のころ本で読んだ記憶では、四日市宿でお風呂に入った弥次さん、五右衛門風呂の底板を外して足が熱く、下駄をはいて風呂桶を壊してしまうという、そんな内容ではなかったか?ところが本を読むと、声をかけた女中の適当な返事を真に受けて、風呂で待つ間に伸びてしまうという設定になっている。道中、女性をからかったりして とんだ助平道中記である。
“焼きはまぐり”の店は、桑名から伊勢朝日、富田と点在していたようである。弥次さん北八さんは富田で焼きはまぐりを食べている。
斯うして朝明川の松寺をうちすぎ、富田のたて場にいたりけるに、ここはことに焼きはまぐりの名物、両側に茶屋軒を並べ、往来を呼びたつる声にひかれて、茶屋に立ち寄り、腰を掛けると、女「おはようござりました」弥次郎兵衛、旦那のつもりで草鞋履きのまま茶屋の板の間にあぐらをかき「きた八、したくはいいか?」北八もお供気取りで「よろしゅうござりましょう。コレ女中。お召を二膳出してくんな」女「ハイハイ、蛤でおあがりなされますか?」弥次「イヤ箸で食いやしょう」と洒落ている。
焼きはまぐりは、大皿に積み重ねて盛ってあり、飯が付く。此処で二人は飯盛りの違いに、女が惚れているなどと冗談を交わし、
北八「ハハハハ 蛤をもっとくんなせぇ」女「ハイハイ」又焼きたての蛤を大皿に盛って出す。弥次 女の尻を見つめて「おまえのはまぐりなら、なおうまかろう」女「ヲホホホホ 旦那様はようおふざけじゃ」と弥次さん、女の尻をちょいとあたったりしている。
品が悪いというより、むしろ性に対して開放的だったのだろう。二人は午後四時頃富田をたって、夕刻 四日市宿に到達している。 つづく