“商工春秋”4月号の表紙を飾るのは“東海道五十三次之内四日市之図(美人東海道)”です。
美人東海道と通称されるシリーズの一つで、歌川広重の保永堂版「東海道五十三次之内四日市」を背景に、一人の女性の立ち姿が描かれている。作者は歌川国貞、後の三代歌川富国である。著名な広重の作品を国貞が写したわけだが、細部は若干異なっている。しかし、保永堂版の見せ場である転がる笠が、きちんと見えるように配置して、構図に気を配っていることがわかる。
女性は、濃い茶色地に青い花弁を散らしたような小袖を着ている。腰の左に赤い抱え帯が見える一方、左脇にこのシリーズで唯一描かれている懐剣と思しきものを抱えており興味深い。扇子を右手に左を見遣る視線の先に、何が見えているのであろうか。
(市立博物館学芸員・田中伸一氏)