山田洋次監督が、こんなことを話している。
「張込み」や「砂の器」の脚本を書いた橋本 忍さんは、黒澤明監督と組んで「生きる」や「七人の侍」をつくってきた。しかし、その後、疎遠になっていた。
あるとき、橋本さんは黒澤監督が「赤ひげ」を撮ることを聞いて、スタッフの一人に、それはどんな話だ?と尋ねたそうだ。
彼はこう答えた「若い医者の卵が赤ひげと云う風変わりな医者の弟子にさせられる。最初は嫌で嫌で仕方なかったんだけど、さまざまな体験を経て、最後は“よし俺はこの医者の下で勉強しよう”と決心するまでの話です」橋本さんはその話を聞いて、そんな映画面白くないと思った。
何故かというと、若者が最後に去っていく、というならいい。それは一つの終わり方なんだ。どうしても残らせたいなら、いったん去るんだ。去った若者が再び帰ってくるところでおしまいにすべきだ。
これは「素晴らしき哉、フランク・キャプラ」井上篤夫著 集英社新書 で読んだ。
そして、映画“WOOD JOB!・神去(かみさり)なあなあ日常”(2014年公開)をようやく観ることとなって、アッと思った。山田監督のはなしていたそのままがこの作品にあったからだ。
平野勇気は高校卒業後、わけの分からないままに三重県美杉村の山奥“神去村”へやってくる。そこで林業従事者としてさまざまな体験を経て、時が経ち、やがて別れのときが来ます。勇気は神奈川へ帰ることになるのですが、いったん去って、また再び戻ってくるところで映画が終わっています。神去村へ戻った勇気のその後の生活の一切は皆さんのご想像に任せます・・・といったところでしょうか。
矢口史靖監督、三浦しおんの原作で、とても良い作品です。是非ご覧ください。