博の父、諏訪飈一郎(ひょういちろう)(志村 喬)は、妻に先立たれる。葬儀に駆け付けた後も残る寅次郎。その夜、りんどうの花の話を聞く。飈一郎の口から放浪の寂しさ、侘しさが語られる。
「・・・そう、あれは、もう十年も昔のことだがね・・・わしは信州の安曇野というところに旅をしたんだ。
バスに乗り遅れて田舎の畑道を一人で歩いているうちに日が暮れちまってね、暗い夜道を心細く歩いていると、ポツンと一軒の農家がたってるんだ・・・りんどうの花が庭いっぱいに咲いていてね、あけっ放した縁側から、あかりのついた茶の間で、家族が食事をしているのがみえる。
わたしゃね、その情景を、ありありと思い出すことが出来る。庭一面に咲いた、りんどうの花、あかあかと灯りのついた茶の間、にぎやかに食事をする家族たち。わたしはその時、それが・・・それが本当の人間の生活ってもんじゃないかと・・・ふと、そう思ったら、急に涙が出てきちゃってね・・・
人間は絶対に一人じゃ生きていけない・・・さからっちゃいかん・・・人間は人間の運命にさからっちゃいかん・・・そこに早く気がつかんと、不幸な一生を送ることになる。
判るね、寅次郎君・・・判るね」