東宝創立20周年記念として黒澤明監督により制作された「生きる」は、昭和27年10月9日、四日市では弥生館で封切られました。
最後に完成した公園で「ゴンドラの歌」を歌う渡辺課長
人は何のために生きているのか、生きているなら何ができるのか。『生きる』は、まっすぐに問いかけてくる心にしみる名作です。“こころをよむ シネマレッスン 主人公が教えてくれること 青柳秀侑”より
黒澤監督は、コントラストでも、合成でもなく私たちがよく知る『ある物』を使って、白黒の世界に変化を付けました。監督は何意を使ったのでしょう。
胃癌であることを知った市民課長、渡辺勘治(志村 喬)は苦しみから逃れるため、街で出会った作家(伊藤雄之助)に誘われ生まれて初めて派手に遊びます。
この時買い替えるのが帽子です。そして、映画の中ほどを過ぎたあたりで、葬儀の場面となります。
自分を変えるための帽子は、最後のシーンにも出てきます。重要な役割を果たしていたのですね。これにはラジオ番組“こころをよむ”を聞くまでは、気づきませんでした。
むしろ最後の回想シーンで、公園ができた暗渠を見下ろす渡辺課長の空は、真っ赤な夕焼けだったような気がしていました。
“いのちみじかし 恋せよ おとめ”最後、公園のブランコに乗り 明るい色の帽子をややあみだにかぶり、ささやくように歌いだします。そして少し顔を上げます。まるで奇妙な色の帽子が仏様の後光か、天使の輪のようではありませんか。おそらく彼は、その時、悟りを開いたのです。何のために生きるのか。この帽子こそ、人生に光明を見出したことを伝える小道具だったのかもしれません。
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