弥次郎は風呂場で買い求めた焼酎を「よしよし。これでくたびれがやすまるだろう」と言って足に吹きかけている。(こんな民間療法があったのだ)
さて、弥次郎、湯につかり、女が来るのを待ちながら足の指を一本一本洗ううちに湯あたりしてしまう。これを見つけた北さんは、水をかけてようよう座敷に連れて帰る。
北「おめえもとんだものだ。いい加減に上がればいいに」弥次「イヤ俺も手めえのいったとおり、大方 女メが来るだろうと、待ったほどほどに、向こうの台所に、かの年増らしいやつが、何かを洗っているから、コレ背中を流して下せえと言ったら、ハイとこいて、60ばかりの婆ァめが、タワシを持ってきやァがって、お背中を洗いましょうかとぬかしやアがる」北「こいつはいい。それからどうした」弥次「聞いてくれ、俺もあんまり業腹だから、いまいましい婆ァめだ、タワシをもってどうしやァがると言ったら、ハイハイとぬかして引っ込んだら、やがてまた包丁の折れたのを持って来やアがって、これでお背中の垢をこそげおとしてあげましょうかと、俺が鍋か釜のように思っていやァがるそうな」
と二人の女談義に花が咲く。やがて夜、相部屋の客が寝たのを幸いに、ふたりは女の処へ夜這いに出かける。なんとまあ始末の悪い客である。廊下は真っ暗。手探りで進むうち壊れかけた棚に手が当たり、大きな音がしないように棚を支えて夜を明かす・・・とこれは落語にも同じシーンがある。
上方落語“口入屋”(桂枝雀爆笑コレクション・ちくま文庫より)
番頭「何したの、これ?棚膳担げたん?何やいこれは。えらいグラグラするやないかい」
杢兵衛「そういう声は杢兵衛どんかい。おい。これ二人で担げてんのかい、膳棚を。一番番頭と二番番頭と。バカなことすんねやないがな、これ。おっと、揺すったらいかん。コトッと何やこけた。醤油差しと違うか、醤油差しと。そんなもんが倒れたら騒動・・・・醤油が流れてきた。背中へ入ったあ。やいとの皮が剝けたんねやがな。ふーん、しみる、しみる」
宿屋での夜這騒動記。これでは教科書にも載せられません。