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Channel: 花の四日市スワマエ商店街
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「東京物語」空気枕のまなざし

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「東京物語」は、尾道で老夫婦(笠 智衆・東山千栄子)が東京へ出かける準備をしているところから始まります。広島県尾道市は小津安二郎が敬愛する志賀直哉が住んでいた土地。瀬戸内海沿いの町は、静かで、穏やかなところです。
ここで、旅支度の老夫婦が、空気枕をめぐって交わす会話があります。シナリオからご紹介します。
     
露地の向こうの通りを子供たちが小学校へ通ってゆく。
部屋では今、周吉ととみが旅行のしたくの最中で、とみはいそいそとして荷物を詰め、周吉は汽車の時刻表を調べている。
周吉「これじゃと大阪6時じゃなぁ」
とみ「そうですか、じゃ敬三もちょうどひけたころですなア」
   敬三(大阪 志郎)は大阪の国鉄に勤務する次男
周吉「ああ。ホームへ出とるじゃろう、電報打っといたけえ」
     
   周吉ととみ、仕度をつづけながら
とみ「空気枕アそっちへ這入りやんしたか?」
周吉「空気枕アお前に頼んだぢゃないか」
とみ「ありやんしえんよ、こっちにや」
周吉「そっちよウ渡したぢゃないか」
とみ「そうですか」
   と自分の荷物を探す。
   と、窓の外を隣の細君(高橋 豊子)が通りかかる。
細君「お早うござんす」
とみ「ああ、お早う」
細君「今日お発ちですか」
とみ「へえ、昼過ぎの汽車で」
細君「そうですか」
周吉「まア今のうちに子供たちにも会うとこう思いましてなア」
細君「お楽しみですなア。東京じゃ皆さんお待ち兼ねでしょうて」
周吉「イヤア、暫らく留守にしますんで、よろしくどうぞ」
細君「まア、お気をつけて行っておいでなしゃア」
     
   で、隣の細君が通りすぎて行くと
とみ「空気枕、ありやんしェんよ、こっちにや」
周吉「ないこたないわ。よう探してみい」
   と言いながら自分の荷物の中に発見して
周吉「ああ、あったあった」
とみ「ありやんしたか」
周吉「ああ、あった」
   そしてまた仕度をつづける。
この数分間のシーンの中に、老夫婦の仲のあり様のすべてが、ほほえましく描かれています。
が、しかし・・・     つづく

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