中野翠さん著の“この世は落語”はおもしろい。やたらいろんなことを思いめぐらせておいて、ストンと落とす…
・・・もう一つ、桂文楽の噺の中で不当に冷遇されていると思うのが「馬のす」だ。ごくごく短い噺なのでしかたのなかもしれないが。と紹介してオリマス。
●釣りに出掛けようとしていた男が、釣り糸が弱っているのに気づく。そばに馬がいたので、馬のシッポの毛を一本抜いて糸の代わりにしようとする。
●それを見た友人の「カッちゃん」は驚いた声で言う。「お前は知らないから抜いた。知ってりゃ抜きゃあしませんよ」「以前、ひとから教えてもらったんだ、こうこうこういうタタリがありますよ」と・・・
男はおびえ、ジレる。馬のシッポの毛を抜くとどんな悪いことがあるのか知りたくてたまらない。
「カッちゃん」は言う。「竹馬の友だからね、お前に話すんだからね、俺だってタダでおそわったわけじゃない」。
知りたくてたまらない男は「カッちゃん」に酒と枝豆をふるまって聞き出そうとする。
「カッちゃん」はうまそうにジックリと酒を呑み、枝豆をつまむ。いきなり「電車、混むねえ」などと全然関係ない世間話までして、なかなか本題に入らない。ますます男はジレる。
さあ、呑み食いは終わった。「カッちゃん」は声を張って言う。「馬のシッポの毛を抜くとね」。「うん」と答える。「カッちゃん」は言う。
「馬が痛がるんだよ」。