小津安二郎 晩年の作品には、昭和34年“お早よう”・昭和34年“浮草”・昭和35年“秋日和”・昭和36年“小早川家(こはやがわけ)の秋”そして遺作となった昭和37年“秋刀魚の味”と続きます。
“小早川家の秋”は、宝塚東宝作品103分。東宝の豪華俳優陣が並びます。中村雁次郎、原 節子、司 陽子、新珠三千代、小林桂樹、島津雅彦、森繁久彌、浪花千栄子、団 令子、杉村春子、加東大介、東郷春子、白川由美、山茶花 究、笠 智衆、望月優子らが出演しています。
関西の地方都市にある没落しかかっているつくり酒屋。ここのご隠居(中村雁次郎)の道楽者ぶりを中心にして、家族の人々をペーソスも豊かな喜劇タッチで描いた作品です。
若いころから女道楽だった隠居は、老いて昔の妾(浪速千栄子)と再会し、卒中の病後でしっかり者の長女(新玉三千代)から厳しく見守られている身でありながら、その目を盗んでは家をぬけ出して会いにゆく。そして妾の家でひょっこり死んでしまいます。老人の死という深刻なテーマにもかかわらず、華やいだ気分があるのは喜劇の上手い俳優が揃っているせいでしょうか。
最後に、火葬場の煙突から出る煙を眺めて、農夫(笠 智衆)が「死んだのが若い人だったらかわいそうだけれど、死んでも 死んでも、あとからあとから、せんぐり せんぐり生まれてくるわ」と語ります。この“せんぐり せんぐり”は“彼岸花”(昭和33年)でも、京都の旅館の娘 山本富士子が口癖のように言っています。
“せんぐり”は“先繰り”と書き、老いた者は去り若い者が続き、また老いてゆき次世代が続くというくり返しの仏教で言う“輪廻転生”の世界感を表しています。小津監督は、死という深刻な問題を当然あることとして明るく捉え、その後、少し寂しさが漂うような(無常観)描き方をしています。
この作品の季節は夏。“小早川家の秋”の秋は、長男の未亡人小早川秋子(原節子)から取っているのでしょうか?京都を舞台に、小津監督が東宝(宝塚映画)に招かれて撮ったただ1本の作品です。
森繫久彌と加藤大介
造り酒屋、小早川家(こはやかわけ)万兵衛(中村雁次郎)の長男は、家督を継がず弁護士でしたが現在は他界しています。その妻の秋子(原節子)を狙って叔父の北川弥之助(加藤大介)は、磯村英一郎(森繁久彌)を紹介しますが・・・。
浪速千栄子のところを訪れた中村雁次郎
小早川万兵衛は、家人の眼を盗んで、せっせと佐々木つね(浪花千栄子)の処へ通います。
長女の新珠三千代
酒屋の長女(新珠三千代)には夫の久夫(小林桂樹)が居て店を切り盛りしています。番頭の山口信吉(山茶花究)は店員の丸山六太郎(藤木悠)に出かける万兵衛の後をつけさせます。
旦那の小林桂樹
山茶花究と藤木悠
型にはまった演技をさせる小津監督にとって、森繁と山茶花の個性派役者は つき合いにくい相手だったそうです。