石川達三著“生きている兵隊”(伏字復元版)中公文庫
昭和10年「蒼氓」で第1回芥川賞受賞した。昭和12年
から華北へ従軍。昭和13年「生きている兵隊」を中央公論に発表するも、反軍的であるという理由で即日発禁となった。
上海に上陸した日本軍は、南京へと向かうその行軍の様子が書かれている。大陸深く入るにしたがい、後方援助は途絶え、現地調達となる。抵抗する老婆から牛を奪い取ったり、スパイと判断した若い女性を銃剣で刺し殺したり、家族を殺された為泣き叫ぶ女性を“うるさい”との理由で撃ち殺したりしている。
戦争の残酷さが、実際に従軍したものでしか書けないリアルさで胸に迫る。
戦後、完全復元版が出されたが、伏字となった部分に傍線が施してある。最後の圧巻は、ほとんどすべてが伏字だ。近藤は、南京の酒場で芸者を拳銃で撃つ。その狂気に至る過程には鬼気迫るものがある。
近藤は撃つつもりがあったかどうか分からなかったが、女が逃げ出したのを見ると発作的に指が引き金を引いた。爆発の音は二度つづいて起こった。女ははげしい悲鳴を上げて戸口から外へ走り去った。