フジテレビの“男はつらいよ”が始まる4年前、渥美清は山田洋次監督の“運が良けりゃ”の最後に特別出演している。江戸時代、長屋の金貸し婆が、餅といっしょに金を呑み込み死んでしまう。このことを知った隣の住人ハナ肇が、死体を火葬場に持ち込んで灰の中から金を取り出そうとするのだが、この火葬場の番人が渥美清である。小林信彦は“おかしな男 渥美清”でこう記している。
何ともいえない扮装、もじゃもじゃの頭で、鼻をクンクンいわせながら(私にはズーズーと聞こえる)「上焼きか、それとも並み焼きか」と言い、「火葬札、あるのか?」とたずねる。
金貸しの婆さんの死体を焼いて金をとろうとしているハナ肇たちは、そんなものを持ってない、うるさい奴だというので、近くの杭に縛ってしまう。
勝手に火葬にするハナ肇たちを見ていて、気味の悪い男(渥美清)は、「焼けた、並み焼き上がり!」と縛られたまま言い、そのまま杭を抜いて歩き、へらへら笑っている。
ハナ肇たちを<食ってやろう>と言う気持ちがはっきり出た怪演だが、何度観ても気分が悪くなる。やり過ぎである。
はたしてやり過ぎだろうか?と私は思う。そもそも焼いた死体の中から金をとりだそうとしている異常な場面で、ぎらっと光る演技を見せて<食ってやろう>と考えたら、これぐらいの<怪演>で良かったと思う。
渥美清は、自分が善人役では受けないことを知っていた。