“四日市市市民文化事業 寅さんからの招待状”二本目の上映は10月28日金曜日午後6時より“男はつらいよ 第8作 寅次郎恋歌”でございます。製作会社の松竹は、“男はつらいよ”“続 男はつらいよ”新 男はつらいよ““男はつらいよ フーテンの寅”とヒットを飛ばすごとに『次を作っても良いかナ・・』といった調子で続編を重ねてまいりましたが、第8作に至っては、本腰でシリーズ化に乗り出した記念的作品、山田監督もこの期待にしっかりと答えています。
上映時間も2時間弱となり、単品でも勝負ができる勢いで製作されました。マドンナは池内淳子。残念ながらおいちゃん役の森川信さんは、この作品が最後となります。苦労人の喜劇役者で「バカだねぇ~ ほんとうにバカだねぇ」や「おい、まくら、さくら取ってくれ」などの名セリフがございます。朝日新聞出版の“寅さんの向こうに”で森川さんの通夜の様子がありましたので、掲載させていただきます。右から、倍賞千恵子、渥美清、三崎千恵子、吉永小百合の皆さんです。
“寅次郎恋歌”、雨の日の芝居小屋からこの物語は始まりです。濡れたスピーカーから歌が聞こえています。
花摘む野辺に 日は落ちて
みんなで肩を 組みながら
唄をうたった 帰りみち
幼馴染みの あの友この友
ああ 誰か故郷を 思わざる
※ この映画のテーマは“放浪と定着”であることを予見しています。
『今夜中にこの雨もからっと上がって、明日はきっと気持ちのいい日本晴れだ。お互えにくよくよしねえで頑張りましょう』
寅さんは1年のほとんどが旅の空です。神社やお寺の祭礼で啖呵売をすることを生業(なりわい)としていて、天候に左右される仕事です。
或る雨の日、旅芝居を観ようと芝居小屋に入ったら、悪天候のせいでお客が一人も入らず芝居は中止。座長の坂東鶴八郎(吉田義夫)から詫びの言葉を聞きます。吉田さんは東映時代劇の悪役で知られたベテラン。人生の大半を旅暮らしで過ごしてきたであろう老座長にぴったりの風貌です。
事情を聞いた寅さん、お互いお天道様に左右される「稼業はつらいやね」としみじみ互いの境遇を話し合います。そして、「明日はきっと気持ちのいい日本晴れだ」と励まします。「人生 晴れの日もあれば雨の日もある」。つらいことがあっても、ひどい目にあっても、生きていてよかったと思うことがある。それを身をもって知っているから、こうした言葉が自然に出てくるのでしょう。
そして、ラストシーン。マドンナ(池内淳子)に失恋をして、再び旅の人となった寅さんが、甲州路で一座と再会を果たします。遠くには富士山。もちろん天気は「気持ちのいい日本晴れ」です。
佐藤利明著“寅さんのことば”(東京新聞)より