小津安二郎監督“麦秋”で、杉村春子が原節子に息子との結婚を頼むシーンがあります。
「紀子さんおこらないでね 謙吉にも内緒にしといてよ」
「なあに?」
「いえね、虫のいいお話なんだけど あんたのような方に謙吉のお嫁さんになって頂けたらどんなにいいだろうなんて そんなこと思ったりしてね このあたしがお腹ン中だけで思った 夢みたいなお話し 怒っちゃ駄目よ」
「ほんと? おばさん ほんとにそう思ってらした?あたしのこと」
「ごめんなさい だから怒らないでって言ったのよ」
山田洋次監督は、“寅次郎相合い傘”にこのシーンを取り入れました。
「これ、冗談よ あのね・・・なんだか言いにくいな」
「変ねえ そんなのないわよ 失礼よ」
「実はね 本当に冗談だから 怒っちゃ嫌よ」
「分かったから早く言って」
「じゃあ言うけど リリーさんがね お兄ちゃんの奥さんになってくれたら どんないすてきだろうな って ねえ冗談よ 本当に冗談よ」