“小津安二郎と「東京物語」”貴田庄著 ちくま文庫 より
ヴィム・ヴェンダース監督が「東京物語」をこう称えています。
20世紀になお“聖”が存在するなら
もし映画の聖地があるならば
日本の監督・・・
小津安二郎の作品こそふさわしい
小津の映画は常に最小限の方法をもって
同じような人々の同じ物語を
同じ町を東京を舞台に物語る
彼の40年にわたる作品史は
日本の生活の変貌の記録である
描かれるのは日本の家庭の緩慢(かんまん)な崩壊と
アイデンティティーの衰退だ
だが進歩や西欧文化の影響への批判や
軽蔑によってではない
少し距離をおいて失われたものを懐かしみ
悼(いた)みながら物語るのだ
だから小津の作品は
もっとも日本的だが国境を越えて理解される
私は彼の映画に世界中のすべての家族を見る
私の父を 母を 弟を 私自身を見る
映画の本質 映画の意味そのものに
これほど近い映画は 後にも先にもないと思う
小津の映画は20世紀の人間の真実を伝える
我々はそこに自分自身の姿を見
自分について多くのことを知る