第27回 小津監督“秋刀魚の味”
小津安二郎監督の遺作となった昭和37年の作品“秋刀魚の味”は、表題の通り、昭和の庶民の食べ物が並びます。戦争から帰った小津監督は、平和で平凡である日常を味わっていました。そんな、しみじみ感がよく出ている作品です。
同窓生が集まって恩師(東野英次郎)を料亭に招待します。さもおいしそうに食べる恩師。「これはなんですか?」「先生それはハモ(の吸い物)です」「ハム?」「いえ、ハモです」「魚偏に豊かと書いて鱧か」定年後の先生は、下町で小さなラーメン屋を営んでいました。
先生の店へ記念品を届けに来た笠智衆は、そこで昔の戦友(加藤大介)と出合い、近所のトリスバーを訪れます。そこでは、ウィスキーをストレートで飲んでいます。つまみはピーナッツです。
笠智衆の長男(佐田啓二)は結婚して岡田真理子とアパートに住んでいます。遅れて帰った岡田はハンバーグを買い、佐田はハムがあったので「ハム玉をつくっている」と卵を溶いています。
再び、父は娘(岩下志麻)の結婚の相談で長男(佐田)とトリスバーを訪れます。夜の食事がまだだった長男は炒飯を取り寄せてもらい、笠は豆をつまみにトリスウィスキーの水割りを飲んでいます。
数日後、父親の相談を受けて佐田は同僚を誘いとんかつやで飲んでいます。
鱧の吸い物、ラーメン、ストレートのウィスキー、水割り、炒飯、ビール、とんかつと食事のシーンはどれもおいしそうです。
映画に出てくる商店街は、田園調布の東方あたりで工場の立ち並ぶ下町と云った感がします。昭和37年、まだまだ空き地や荒れ地が残る風景が広がります。