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Channel: 花の四日市スワマエ商店街
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稲葉翁伝⑧ 四日市湊へ 其の二

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「これは これは吉田さん、お早いお着きでしたなぁ」中納屋の稲葉の店頭に現れた詠甫を出迎えたのは三右衛門(先代)だった。「おや 坊ちゃんですか、どうぞ どうぞ」と奥の八畳へ案内した。

「良いお日和ですなぁ 船ですか 陸でしたか?」

「ハイ 舟で参りました それも川舩で」

「へえ あの川舩で桑名から」

「この子に教えられましてなぁ 初めて川舩を四日市まで乗り入れました。たった今、あそこの北納屋河岸へ舩を繋がせてもらったばかりです」

三右衛門は、改めて九十郎の負けじ魂に輝く顔をマジマジと眺めて「そうでしたか そりゃ大手柄でしなぁ」三右衛門は快活で無邪気な九十郎に強く心をひかれた。

稲葉家には、7才になる一人娘のおたかが居た。九十郎は何度か稲葉家へ来るうちに、おたかと仲良しになり、実の妹のような感情を抱くようになった。

天保年間の四日市湊

ある日、おたかの手を引いて浜新橋(後の開栄橋)を渡り、地引網漁を見に行った帰り、橋に片足をかけようとしたおたかが、物につまづいて川に落ちてしまった。付近に居た大人たちが右往左往するのを尻目に、九十郎は着の身着のままで海中へ飛び込んだ。そこは幼いころから揖斐川の水で鍛えた九十郎であった。

「あゝ おたかが助かった。これも坊ちゃんのおかげや。ありがとう」母親のおたいは、心の底から九十郎に感謝した。

「私がついていて、嬢ちゃんをこんな目に合わせて、本当に申し訳がありません」

こんなことがあってから 九十郎とおたかの間は、一層親しいものになっていったし、両親も行く行くは家の養子にと考えるようになっていった。こうして九十郎は、回船問屋 稲葉三右衛門の家督を継ぐことになるのであった。

四日市湊付近風景 明治初年(四日市の100年より)

・・・って、この本、話が出来すぎではありませんか? マ、エエですか。生真面目な三右衛門様の名をけがしてはなりません。 つづく “郷土秘話 港の出来るまで”より


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