江戸末期から明治初年にかけて来日した外国人は、日本人が奇妙な歩き方をしていたと話しています。“ナンバ”歩行?について、演劇評論家の武智鉄二氏は、このように述べています。
「歩く江戸の旅人たち」谷釜壽徳氏著
「日本民族のような純粋な農耕民族(牧畜を兼ねていない)の労働は、つねに単え身でなされるから、したがってその歩行の時にもその基本姿勢(生産の身ぶり)を崩さず、右足が前へ出るときには、右肩が前へ出、極端に言えば右半身全部が前へ出るのである。農民は本来手を振らない。手を振ること自体無駄なエネルギーのロスであるし、また手を振って反動を利用する必要が、農耕生産には無い。」
歴史家の多田道太郎氏も、“能楽”の“すり足”で武智氏の意見に賛同しています。また、民俗学者の高取正男氏も「半身のかまえは、われわれ日本人にとって、本来はもっとも自然で、基本的な働く姿勢であった。」
私達が江戸時代へタイムスリップしたら、奇妙な世界が展開していたかもしれません。
旅人の基本的な装い「伊勢参宮名所図会」より
人類学者の野村雅一氏曰く「日本の民衆の伝統姿勢(この場合、主として明治期まで人口の大多数を占めていた農民を問題にしている)は、腰をかがめ、あごをつきだし、四肢がおりまがった姿であった。歩く時もひざは曲がったままであり、腕の反動も利用することはない。なまじ腕を振って歩くように言うと、右腕と右脚、左腕と左脚というように、左右の手と足をそろえて突き出す。いわゆる『ナンバ』式で歩き出すのである。」
当時の西洋人は、日本人が「足を引きずって歩く」と指摘しています。女性は“すり足”で歩き、男性は“足を前方に押し出している”と。こうした“引きずり足”の歩行を、武智氏は、農民の歩行を「ぞろぞろと足を引きずりながら歩いたものだったに違いない。」と断言しています。また、日本人は音を立てて歩くとも指摘しています。 つづく