はじめに “マンガ黄金時代”文芸春秋社編集部より
こんなエピソードを覚えていますか。大学紛争華やかなりし1960年代後半、全国の大学では学生たちのバリケードストが相次いでいた。体制の変革を目指しバリケードで解放区を構築しようとしていた彼らが愛読していたのは、難解な思想書、そして、なんとマンガだった。
マンガと学生運動活動家との結びつきは、当時を象徴する風俗現象のひとつとして、大いに世間の注目を集めたものです。
“大人のロマンと子供の科学”赤瀬川源平著より
すごいと言えば平田弘史の剣豪マンガも際立っていた。絵がうまいし残酷な悲愴美がすごい。その残酷の描写が微に入り細にわたって、殺された武士のうめき声なども「ムグフフー」という臨床的か あほらしいというか 生々しい発音文字がコマからはみ出してインクがほとばしったりしている。
もう一つちょっと気持ちの悪いのがあって、どこかの山の手みたいな邸宅を背景に、子供や先生やお母さんやお姉さんが出てきて、なにか暗い雰囲気がじめじめと続く、その絵が粘っこく丁寧だけどどことなく下手で、そのところが何かしら本当みたいで気味悪い、何冊も読むうちにはどうしてもその何冊かが際立ってきて、マンガ家の名前は“楳図かずお”だった。それからちょっとして月刊漫画の「ガロ」が出たのだと思う。
二十歳の頃、少し大人になった気持ちで買った漫画雑誌が「ガロ」だった。そこに掲載されていたのが“李さん一家”(昭和42年6月号)でした。後年、作者のつげ義春氏は高野慎二氏に話している。「今風にいえば、落ちこぼれというか、世の中外れちゃった方が生きやすいんじゃないかっていう気分がありました」「これは当時連作する気分でいたんです」
“李さん一家””つげ義春 冒頭 以降 つづく
昭和45年1月『現代コミック』に、“李さん一家”の続編と思える“蟹”を発表している。 “つげ義春コレクション”高野慎二著