平成28年1月23日、吉村英夫先生を迎えて四日市諏訪商店街振興組合主催の小津安二郎監督“麦秋”の上映と講演会を行いました。寒い午後でしたが48名の皆様にお集まりいただき、上映後20名ほどの熱心な小津ファンの方々と共に、先生のお話を聴くことが出来ました。
“麦秋”のなかで、祖父の菅井一郎は妻の東山千栄子と語り合います。「いまが一番いい時かもしれないねェ」「私たちはまだマシな方だよ」人生の終焉を意識しつつ現在の幸せを噛みしめる。そこに悲壮感はありません
この作品は、年寄り夫婦、息子夫婦(笠智衆、三宅邦子)と子供二人、妹(原節子)の親子三代が同居している大家族の物語です。しかし、原節子の結婚を機に年寄りは鎌倉から奈良へ隠居を決めます。こうして離散していく家族。「みんなバラバラになるねェ」としみじみ語る菅井一郎。最後は、奈良盆地の麦畑を行く婚礼の行列を眺めているところで終わります。
自分たちは結婚し家族を作ってきた、そしてまた子供たちは結婚し子供たちを作っていく。“彼岸花”で山本富士子に“小早川家の秋”では笠智衆に云わせていた“せんぐりせんぐり”という言葉、“繰りかえし”を軽いタッチで言ったものですが、自分たちは大和の地で死を迎えるけれど、次の世代が引き継いでいく。こうして人の営みは繰り返して続けられていく、それが当然のことなんだと、小津監督は語っています。
監督は結婚をしていませんから子供がおりませんでした。当然血のつながりは耐えています。しかし“繰りかえし”は人生を謳歌し横のつながりを大切にすることで次世代へ引き継がれていくのです。世界の監督小津安二郎の名前は100年を経ても人々に愛され続けています。