四日市商工会議所様発行 商工春秋10月号“東海道五十三次 桑名 富田立場之図”より
「狂歌入東海道」と呼ばれるシリーズのひとつ。二軒の焼き蛤屋の店舗で蛤を焼いている。その香りに惹かれたか、道行く者の一人は顔を振り向け、もう一人は、立ち止まって焼き上がるところを見ている。店内で休息をとる駕籠舁き(かごかき)二人の姿が印象的である。
富田は日永とともに、宿場と宿場の間で旅人を接待する間(あい)の宿と呼ばれていた。当時の富田は桑名藩領であり、桑名の名物焼き蛤も売られていたようである。「京橋仙女香」の広告や、店横の門、その奥の風景など随所に興味深いものが描かれている。
題名にある立場とはもともと伝馬人足が休憩する場所のことだが、この絵のように、駕籠舁きも集うほど賑やかになったところもある。
画中掲載の、棟の門鬼丸による狂歌は「乗り合いの ちいか雀の話には やき蛤も舌をかくせり」である。 (市立博物館学芸員・田中伸一氏)