車寅次郎こと渥美清、こと田所康雄さんが亡くなり、今年の8月で20年の歳月を経ました。現在、四日市諏訪商店街振興組合では四日市市市民文化事業の一環として映画鑑賞会“寅さんからの招待状”を行っており、10月28日には“寅次郎恋歌”、そして11月25日には“寅次郎相合い傘”を上映させていただきます。午後6時より(午後5時30分より“雑談タイム”を設けておりますので是非ご参加ください。10月28日の“寅次郎恋歌”はフジテレビで放送された“男はつらいよ”をご紹介させていただく予定です)処は、スワセントラルパーキング2階会議室で入場無料でございます。
山田監督の映画に限らず、人が人生をかけて何かを制作する場合、時として傑作が生まれる。
監督やスタッフの高揚の時期、それらが見事に一致するときがごくまれにある。山田監督は「男はつらいよ」シリーズの中でも神様の気まぐれに遭遇し、“寅次郎相合い傘”を生み出したのである。
“寅次郎忘れな草”を撮り終えた山田監督は、浅丘ルリ子の演技をみてリリーというキャラクターをもっと掘り下げたものにできると確信し、続編を書き始める。そしてちょうどこの頃、渥美清(47歳)、倍賞千恵子(34歳)、浅丘ルリ子(35歳)にその年齢にしか出せない人生の高揚気が訪れてくるのである。
この作品は、寅とリリーと同じくらいさくらが素晴らしい。倍賞さんが、このシリーズの中で最も生き生きとした表情でスクリーンの中で華やいでいた。
“相合い傘”は、よい脚本とよい演出、そしてスタッフとキャストが冴えてタイミングが合えば、過激な出来事や悲劇抜きで傑作足りえるということを、私に知らしめてくれた貴重な作品だった。 “寅さん覚書ノート”吉川孝昭氏 より
作品の一場面を紹介します。リリーを職場(小さなキャバレー)へ送った寅次郎は、帰ってきた“とらや”でこう語ります。“寅のアリア”とよばれているシーンです。
寅「リリーにあんなとこで歌わせちゃいけないよ。おらぁなんだかさ、可愛そうで・・・しまいにゃ涙が出てきたよ。あ~あ、俺にふんだんに銭があったらなぁ・・・」
さくら「お金があったらどうするの?」
「リリーの夢をかなえてやるのよ。たとえば、どっか一流劇場。歌舞伎座とか、国際劇場とか、そんなとこを一日中借り切ってよ、あいつに、好きなだけ歌を歌わしてやりてえのよ。」
「そんなにできたら、リリーさん喜ぶだろうね。」
「ベルが鳴る。場内がスーッと暗くなるなぁ。
皆さま、たいへんながらくをば、お待たせをばいたしました。ただいまより歌姫、リリー松岡ショウの開幕ではあります!
静かに緞帳が上がるよ・・・スポットライトがパーッと当たってね。そこへまっちろけなドレスを着たリリーがスッと立っている。ありゃあ、いい女だよ~、え~。ありゃ、それでなくたってほら容子がいいしさ。目だってパチーッとしてるから、派手るんですよ。ねぇ。
客はザワザワザワザワ ザワザワザワザワしてさ。綺麗ねえ・・・いい女だなあ・・・あ!リリー!待ってました!日本一!
やがてリリーの歌がはじまる・・・
ひ~とぉ~り、さかばでぇ~の~む~さぁ~けは~・・・
ねえ、客席はシーンと水を売ったようだよ。みんな聞き入ってるからなぁ・・・
お客は泣いてますよぉ。リリーの歌は悲しいもんねえ・・・
やがて歌が終わる・・・花束!テープ!紙吹雪!わあーっと割れるような拍手喝采だよ。
あいつはきっと泣くな・・・
あの大きな目に、涙がいっぱい溜まってよ・・・
いくら気の強いあいつだって、
きっと泣くよ・・・」